約 1,287,693 件
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1262.html
148 :ぽけもん 黒 草むらの会敵 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/05/31(日) 02 08 45 ID 1uTQqnCC インセクトバッジを手に入れた僕達は、とりあえずポケモンセンターに戻った。香草さんは大丈夫というものの、一応肩も気になったし。 本音を言えば、ツクシさん達としばらく談笑でもしていたい気分だったけど。 彼女達を見ていると、久しく忘れていた“安らぎ”のようなものを覚える。 ああ、何時から僕はそんな当たり前のものすら無くしてしまったんだろうか。 きっと僕の嘆きはおかしなものなんだろう。 可愛い女の子二人(内一人は小さな子供だけど)と旅をしているというのに、愚痴を言っている奴がいたら、僕でも腹が立つ。 でもなぜだろう。そんな羨ましい状況なのに、ちっとも僕の心が休まらないのは。 香草さんの診察中に溜息をついていたら、看護婦さんに「あなたも診察を受けたほうがいいんじゃないかな」と言われた。僕はそんなに疲れた顔をしていたのだろうか。 肝心の香草さんはというと、診断結果は「打ち身」とのことだった。 しばらくは安静にして、処方する湿布薬を毎日張り替えること、だそうだ。 何が演技だ。本当に怪我してたんじゃないか。 尤もこの程度の怪我を見ることなら日常茶飯事なのか――ジムがあるから当たり前だろうけど――、こんな田舎町であるにも関わらず女医さんは平然としていた。 トレーナーとしての資質を問われて注意されなかったのはよかったんだけど、怪我をしたのに雑に扱われているようで少し癪だった。 「ち、違うのよ! あの医者が藪医者なのよ!」 これは香草さんの弁。そんなに強がらなくてもいいのに。 そういえば、香草さんは以前にどんな相手にも負けないと啖呵を切ったから、怪我なんてしたら僕にそれを揶揄されると思ったのかもしれない。 「香草さん、誰が見ても分かるものに藪医者もなにも無いよ」 僕は香草さんの意向で診察室に入れなかったから分からなかったけど、打ち身なんかは誰が見ても怪我していることくらいはわかるものだと思う。 そういうわけで、僕と香草さんは薬局で湿布薬の処方を待っていた。 ちなみにポポはポケモンセンターであてがわれた部屋にお留守番だ。僕とずっと一緒にいたがったけど、病院スペースではしゃがれては本当に具合の悪い人たちの迷惑になるので残ってもらった。 ポポは一応は僕の言うことをちゃんと聞いてくれるんだけど、常に怯えた様子なのが気がかりだ。 僕はそんなに冷酷な人間に見えるのだろうか。 地元にいた頃は、なめられることこそあれ、怖がられることなんて一度も無かったのになあ。 「ホントに違うのよ……あんなの、ただのまぐれよ……」 香草さんは下を見てブツブツと呟いている。 そんなに一撃入れられたことが許せないのかな。 ジム戦は普通一戦目なんて負けて当たり前くらいのものだ。 ジムの攻略が時間的にも、物理的にも、旅における最大の障害となるものなのだから。 だからいくら怪我を負ったからといって、一回で勝てれば上出来なのだ。 しかもその怪我も軽傷だし。 ……しかしこれはトレーナーである僕が言っていいことではないから言えないけど。 僕の力量不足の責任転嫁になってしまうからね。 「香草さんはすごかったよ。アレは、相手を甘く見た僕の過失だよ」 桔梗ジムでの圧勝で、僕は無意識のうちにジム戦というものを軽視していたのかもしれない。 部屋に戻ったら、ポポも交えてちゃんと作戦を考えて、簡単な合言葉で実行できるようにしておかないと。 そんな基本的なことを今更思う。 「……ねえ、私、強いわよね」 香草さんは突然ポツリと漏らした。 「うん、強いと思うよ」 彼女の発言の真意は分からないが、とりあえず無難な返事を返す。 「じゃあ……私のこと……」 149 :ぽけもん 黒 草むらの会敵 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/05/31(日) 02 09 22 ID 1uTQqnCC 「香草さーん。香草チコさーん」 香草さんの言葉は、薬局の呼び出しによって中断された。 「あ、はーい」 香草さんに代わって、僕が薬を取りにいく。 二種類の湿布薬を渡された。 片方は最初の三日。もう片方はそれ以降使うように、とのことだ。 湿布薬の入った袋を持って、香草さんの元に戻る。 「香草さん、それで、さっき言いかけたことって……」 「なんでもないわよ!」 なぜか怒られてしまった。確かに、タイミングを逃すと言いにくいことやどうでもいい話はある。それを考えず聞いた僕は無神経だったのだろう。 「そう。じゃあ戻ろうか」 僕はそう言って、座っている香草さんに手を差し出した。 香草さんは僕の手をじっと見ている。 僕の手のひらに何か書かれていたりするのかな。 あ、そうか。 「香草さんは肩が悪いんだから、手なんて引いたら肩が痛いもんね。ごめんね、気が利かなくて」 僕はそういいながら手を引っ込める。気を使うつもりが相手の負担を増やすところだったとか、僕は何をやっているんだ。 しかし、この言い方は嫌味に聞こえるかな。 僕が手を引っ込めると、香草さんは「あ」と短い声を漏らした。 「どうしたの?」 「な、なんでもないわよ!」 香草さんは勢いよく立ち上がると、大股で僕の前を歩き出した。 なんだろう。やっぱり僕の手のひらに何か書かれていたのだろうか。 自分の手を覗き込んでみても、いつもと変わらぬ手のひらがあるだけだった。 足早に歩き出したと思われた香草さんの足取りは、すぐにゆっくりとしたものになった。普段の香草さんからは考えられないくらいに。 肩以外にも、どこかに怪我しているのかな。 「ねえ、ゴールド」 僕が彼女に、他にも怪我があるんじゃないか、と質問しようとした矢先、彼女のほうから声をかけられた。 「何?」 歩く早さが遅くなっていたのは、僕に何か言いたいことがあったからかな。 僕はごくりと唾を飲み込む。 「あ、あのね……ちょっと散歩でもしない?」 予期せぬ提案だ。 もったいぶった割には、随分とたいしたことない。 どんな非難や中傷が来るのだろうかと戦々恐々としていたのに。 「うん、いいね。まだ時間も早いし、僕もちょうど一日中部屋に篭っているのもどうかなと思ってたんだ。じゃあポポも呼んで来るよ」 そう言って進む僕の手が、香草さんにつかまれた。 「ふっ……二人っきりがいいの!」 唖然。 きっと今の僕の表情は、百人が見て百人が「なんだあの間抜け面は」と思うようなものだろう。 自分の口が開きっぱなしになっているのは分かるが、顎の動かし方が思い出せないから閉じられない。 僕と二人っきりで散歩したい。あの香草さんが、だ。 口を開けば罵倒、手を動かせば殴打、目を開けばフラッシュという、あの香草さんが、である。 うん、大げさなのは分かっている。しかしすべて彼女が行った行動であることは紛れもない事実である。このことは周知だと思う。 僕はふいに一つの結論を見出した。 これは、夢だ。 150 :ぽけもん 黒 草むらの会敵 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/05/31(日) 02 09 52 ID 1uTQqnCC 何時から見ていたのかは知らないが(ジム戦で、実際は二人とも倒されちゃって、僕は目の前が真っ暗になってそのまま眠っているというのが最有力)、僕は夢を見ているようだ。そう考えればすべてのつじつまがあう……気がする。 そうと分かれば早速実験だ。 「香草さん」 「な、なに?」 彼女はビクッと体を震わせた。そういえば、彼女は僕からの返答を待っている最中だっけ。 「今日も可愛いね」 僕は出来うる限り最もさわやかな表情でその言葉を吐き出した。 傍から見たら胡散臭いことこの上ないだろう。胸焼けしそうな甘さだ。 僕の言葉を受けた香草さんは、表と裏で色の違うカードを裏返すように一瞬にして真っ赤になった。 どこかで見たことがあるような、と思ったら、トマトだった。 緑の髪がヘタ。真っ赤な顔が果実。丁寧に天辺には葉っぱまでついている。完璧だ。 でも、たとえ冗談でもこんなことを言ったらぶち殺されること請け合い。 僕は自殺志願者ではないので、もちろんそんなことは口にしない。 それがたとえ夢でもだ。 そう、これは夢であることは確定した。 もし現実であれば、香草さんは顔を朱に染めることなどなく、冷めた目で僕を見ながら「気持ち悪い」と言ってくるに違いないのだから! ……むなしい自虐だ。 そういえば、馬鹿とか最低だとかは結構言われている気がするけど、気持ち悪いと言われたことはないな。となるとこの予測は完璧とは言えないかもしれない。 しかし、夢と分かってしまえば話は早い。目を覚ませばいいのだ。 目を覚ますには、どうするのがいいんだろうか。 「ご、ゴールド、どうしたのよ急に」 香草さんはまだ赤い顔をしたまま、蚊の鳴くようなか細い声で問いかけてくる。 うん、やっぱりこれは夢だ。本物の香草さんがこんな可愛いリアクションをするわけがない。 「いや、ただのテストだよ」 そう答えると、即座に腕をギリギリと締め上げられた。 「ただのテストってどういうことよ」 今度は香草さんじゃなくて僕の顔が赤くなりそうだ。もちろん恥じらいなどではなく痛みで。 っていうか夢なのに痛いってどういうことだ! 「ちょ、折れ……」 「俺?」 「折れそうなんだけど!」 「折ってんのよ」 僕の釈明を待たずにですか!? 非常に恐ろしいことを申す香草さんの口調は極々気軽なもの。それが恐ろしさを助長する。 「ち、違うんだ! これは夢だと思って……」 「夢? 今あなたが感じているこの痛みは夢かしら?」 「夢じゃない! 夢じゃないです!」 「たとえ折れても夢なら大丈夫よねー」 「大丈夫じゃないです! お願い許してえええええ!」 僕は、自分がこんな音も出せることを初めて知った。一生知りたくなんかなかった。 こんなにも僕が叫んでいると言うのに、誰一人駆けつけてもくれない。 他人に残酷なまでの無関心。まさに現代の闇、白昼の道路でそれを垣間見た気がした。 ようやく香草さんから解放された僕は、荒い息を吐きながら膝から崩れ落ちる。 腕は……動く。ただし痙攣による動き。脳の命令を受理しているのではなく、無視して自律運動を行っている。腕によるボイコット。残念ながら雇用者である僕に責任はない。よって稼動条件の改善を訴えられても、受理することが出来ない。 まったく動かないのと痙攣で動くこと、果たしてどっちがマシなのだろうか。 151 :ぽけもん 黒 草むらの会敵 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/05/31(日) 02 10 47 ID 1uTQqnCC 「そもそも、どうして夢だなんて思ったのよ」 僕は今、腕の心配で忙しい。 しかし答えないときっと僕は腕を心配する必要もなくなる。 そもそも心配っていうのは大丈夫な可能性もあるからするものだからね。完全に再起不能になれば気にする必要はなくなる。 「香草さんの態度がおかしかったから……」 「おかしいって……何よ、おかしなところなんかないわよ」 「あるように見えたんだ」 「ないわよね」 「ないです!」 おかしなところなんてなかった。今この瞬間から、そういうことになった。 「で……ど、どうなのよ」 香草さんは視線を微妙にそらしながら僕に問いかける。 どうなの……って何かあったっけ? 強すぎる痛みは人を一時的に健忘症へ陥れる。 「う、うんいいよ」 なので適当に答えておいた。 「ホントに!?」 彼女の顔がぱあっと明るくなる。僕は一体何に同意してしまったのだろうか。 「立てる?」 右腕が小刻みに振動していること以外は僕はいたって平常。立てないわけがない。 「うん」 左手で床に落ちた薬の入った袋を拾い、立ち上がった。 彼女は僕が立ち上がるのを見ると、そのままどこかへ向けて歩き出した。 部屋とは逆方向である。 僕はどうするべきなのだろうか。 彼女をこのまま見送るべきか、着いて行くべきか。 さっき何について言っているのか聞いておくべきだった。今となってはなおさら聞きにくい。 「もう、どうしたのよ」 僕が呆然としていたからだろうか、彼女は僕のところまで戻ってきて、そのまま僕の手をとった。 そして僕の手を引いて歩き出す。 いきなりどうしたのだろう。僕は驚いた。 しかしそれよりも、右手がなんの感覚も伝えてくれないということのほうが驚きだった。 手の柔らかさ、しなやかさ、人のぬくもり。何一つ伝わってこない。恐ろしいまでの無である。 僕の右腕はもうダメなのだろうか。 「ご、ゴールドって手、冷たいのね」 香草さんは照れたように言う。君のせいだよとはとても言えない。 「私もよく手が冷たいって言われるのよね。……冷たい?」 何も分からないとなどとても言えない。 「ど、どうだろう。普通じゃないかな」 そう答えた瞬間、僕の手に痛覚がよみがえった。 僕の手は香草さんにギリギリと握りつぶされている。そうか、この痛みが電気ショックのような役割をはたして、僕の腕を蘇らせたのか! そんな風に感動している場合ではない。再び僕の腕のピンチ。 「……普通ってどういうことよ……そんなに何人もの女の子の手を握ったことがあるの?」 普通だよ、の言葉からここまで想像をめぐらせることができる香草さんの豊かな想像力に驚嘆だ。 「そ、そんなことないよ! ほ、ほら、女の人は手が冷たいってよくいうから、そうなのかなーって!」 必死の弁明。これが聞き届けられなかったら、僕は無実の罪で腕を失うことになる。魔女裁判並みの理不尽だ。 腕が潰れなかったら女の子と手を繋いだ経験豊富ということで有罪。よって腕は潰される。腕が潰れたら経験豊富ではないということになり無罪。ただし腕は潰れる。ふとそんな想像をしてしまい、心臓の鼓動が一層早くなる。 「そう、ならいいわ」 香草さんの手の力が緩んだ。見事勝訴したようだ。 「あれ、今度は急に暖かくなってきたわね」 僕の手はジンジンと脈打っている。香草さんが握りつぶしたせいだよとはとても言えない。 「も、もしかして、てて照れてる?」 てててれてるとは一体何の呪文だろうか。あの毒々しい駄菓子のCMの効果音であるテーレッテレーの親戚だろうか。僕はあのいかにも科学の産物といった、紫の駄菓子を思い出す。 ようやく、今僕は香草さんと手を繋いでいるんだということを思いだした。よく考えればこれは恥ずかしい。 色々あってそれを考えるどころではなかったけど、いざ意識するとどんどん恥ずかしくなってくる。 「……うん」 こう答えるのが精一杯だ。気の効いた事の一つでも言えたらいいのに。 152 :ぽけもん 黒 草むらの会敵 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/05/31(日) 02 11 18 ID 1uTQqnCC 「と、ととと当然よね。なんたってこんな可愛い子と手を繋いで二人っきりなんだから!」 高飛車に聞こえるこの発言だけど、不服ながら異論はない。 僕は何も言えずに、暫し無言が続く。 「……私なんか、可愛くないって思ってる?」 香草さんから不安げな声がポツリ。 突然どうしたのだろう。彼女らしくもない。 「そんなことないよ! 香草さんはとっても可愛いよ!」 僕はむきになって大声で言ってしまった。 「で、でも、テストだったんでしょう!?」 彼女は僕のついさっきの言葉を引きずっているらしい。 「あれは確かにテストだったけど、可愛いっていうのは僕の本心だよ!」 僕は大きな声で何を言っているのだろうか。 恥ずかしいどころではない。きっと僕の顔は真っ赤だ。 香草さんの顔をまともに見れずに、僕は俯く。 香草さんの様子はうかがい知れないが、僕のほうに向き直ったのは気配で分かった。 香草さんの甘い香りが、僕の鼻腔をくすぐる。 「じゃあゴールド……」 香草さんが何か言いかけたそのとき。 森のほうからガサッという音がした。 二人で慌てて音のしたほうを向く。草むらの向こうに炎が見えた。 焚き火か何かだろうか。 森で焚き火なんて危ないなあ、と近付く。 すると炎の隣に、泥まみれのフードが並んだ。 フードの下にあるのは、見まごうこともない赤い髪。この髪の色ははっきりと覚えている。見間違えるはずもない。 「シルバー!」 僕は驚いて叫んでしまう。まさかこんなところで会うことになるとは。 ロケット団と行動を共にしているとしても、まさか草むらから出てくるとは思わない。奴は確か人間だったはずだ。草むらから飛び出していきなり人に襲い掛かる習性はないはずだ。 フードも僕の声に答えるようにして立ち上がった。そこには予想通りの凶悪な面構え。隣の炎はランだったのか。 どうしてここに、という言葉を飲み込んで、香草さんの腹部に腕を回して右に飛ぶ。 先ほどまで僕たちが立っていた地点に数本のナイフが突き刺さった。続けざまに火の粉も。 「まさかこんなところでお前と会うなんてな」 フードを脱ぎながらシルバーが言った。 それは僕の台詞だと言いたかったがそんな余裕はない。 事情なんて関係ない。シルバーは目の前にいる。千載一遇のチャンスだ。 ……荷物の大半が部屋に置いてなければだけど。なんて間の悪い。 すぐさまポケットを探る。幸いにも煙玉は常備してあった。煙球の有用性は前の彼らとの戦いで証明済み。リュックに入っている、効果があるか分からない大半の道具よりは頼もしい。 「香草さん、大丈夫!?」 香草さんの腹部から手を離し、問いかける。 香草さんは少し呆然としていたようだったが、すぐに正気を取り戻した。 「な、れ、レディーのお腹をと、突然触るなんて何考えてるのよ! この変態!」 ええー。 どう考えてもそんなこと言っている場合ではないと思うんだけどなあ。 「こ、今度から触りたければちゃんと前もって……」 なにやらよく分からないことをゴニョゴニョと言っている香草さんを抱えて再び飛ぶ。 再び地面にナイフが突き刺さった。 「今はそんなこと言っている場合ではないよ! 早くシルバーを戦闘不能にしないと!」 「そんなことって何よ! アンタ本当に……」 香草さんの反論の途中で、僕の頭に鈍い痛みが走った。視界の端に宙を舞う石が見えた。僕は痛みで思わずその場に蹲る。 その直後、頭上を火炎が通り過ぎていった。 石はシルバーの投げたものらしい。ちょうど投擲用のナイフが切れたのか。本当に危なかった。あれがナイフだったら今頃僕は死んでいただろう。 「な、ゴールドに何すんのよ!」 自力で火炎を回避した香草さんはシルバー達に向かって吠える。 当然だけど、僕が抱えて跳ぶ必要なかったな。 僕は彼女を守りたかったわけではなく、無意識のうちにセクハラを行いたかっただけなのだろうか。 それならば彼女の批難も尤もだ。 僕がそんな思考を終えるよりも早く。 香草さんは数本の蔦を二人目掛けて伸ばしていた。 その蔦は二人を打つことなく、切り裂かれ、焼け落ちる。 シルバーのナイフによって払われ、ランによって焼かれた結果だ。 なくなったのはあくまで投擲用のナイフだけで、普通のナイフは当然だが健在というわけか。 153 :ぽけもん 黒 草むらの会敵 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/05/31(日) 02 11 53 ID 1uTQqnCC 「ラン!」 僕がランに呼びかけた直後。 僕の正面から火炎が向かってくる。 僕はそれを横っ飛びで回避する。 しかし姿勢を大きく崩してしまった。 追撃の炎が僕に降りかかる。回避は不可能。 僕は即座に煙玉を炸裂させた。 大量の煙が視界を奪うと同時に空気も奪い、炎を弱める。 僕は前面に熱を感じながらも姿勢を立て直し、地面に刺さっているシルバーのナイフを回収する。 計六本。今の僕には貴重な武器だ。 使った煙玉は一個なので、晴れるのは早い。 僕が距離をとったころには、煙はすっかり晴れていた。 逃走される危険も考えたが、香草さんが煙幕めがけて葉っぱカッターを撃ち続けてくれたため、行動を封じることが出来ていたようだ。さすが香草さん。 「相変わらず小賢しい奴だ」 煙が薄くなるやいなや、シルバーは両手にナイフを構えてこちらに走りこんできた。 狙いは香草さんか。 僕はすぐにナイフの一本を投擲する。 シルバーは当然僕も視界に入れていたようで、後ろに飛びのきそれを交わす。 一拍おいて、シルバー目掛けて香草さんの蔦が殺到したが、ランの炎によってさえぎられた。 シルバーはランの隣まで後退する。 「お前にしちゃあ、随分上手いじゃねえか」 シルバーは不敵に言う。僕のナイフ投げのことだろう。 「当然だろ。僕はあの時以来ずっとナイフ投げの訓練をしてきたんだから」 ――お前を、殺すために。 シルバーとラン、二人を相手にして決定打を負わせることは今の僕たちには難しそうだ。そもそも、僕はランとは争いたくない。 「ラン、シルバーから離れろ。シルバーを怖がる必要なんてない。シルバーは一人では何も出来やしない」 そもそもランはシルバーに脅されて一緒にいるだけなんだ。ならばここで保護すれば何の問題もないじゃないか。 幼少期からずっとシルバーの下で過ごしてきたんだ。恐怖は相当なものだろうけど、もう怖がる必要なんてないんだ。 大量に警官が村にいる今、きっとシルバーを逮捕できる。そしたら報復の心配もない。 ランの顔が不意に歪んだ。 彼女が俯くと、背中の炎がドンドン大きくなっていく。なんらかのトラウマが文字通り再燃したのか。 それとも、考えたくはないけど――シルバーに洗脳されているのか。 「ラン、そのまま火力を上げて奴らに突っ込め」 シルバーは冷たく命令した。 「はい、マスター」 ランのかすれた声がそれに答えた。 炎はランの全身に回り、さらにどんどん温度を上げていく。炎の色が見る間に赤からオレンジ、そして白色へと変わっていった。 香草さんはすぐさま危険に気づいたのか、彼女に向けて葉っぱカッターを飛ばす。しかし軽い葉っぱは彼女の熱によって起こった上昇気流のせいでまともに当たらない。 香草さんの行動でようやく事の重大さに気づいた僕は、彼女を止めるために、痛む心を抑えて彼女の両足目掛けて二本のナイフを投げた。 しかしそのナイフは彼女に到達する前に、燃え尽きて消えた。 果たしてナイフが燃えてなくなるのを見たことがある人はどれくらいいるだろうか。 当然、僕は初めて見た。 そもそもナイフが可燃物だったという事実を初めて知ったくらいなんだから。 唖然とする僕をよそに、ランが上体を傾けた。 そして弾かれたように走り出した。 狙いは……僕だ! 彼女の踏みしめた草は見る間に水分を失い、燃えていく。 彼女は熱の塊と化していた。 百メートル先から見たって恐怖で凍りつきそうなものが数メートル先から僕目掛けて迫ってきている。 想像を絶する恐怖だ。 154 :ぽけもん 黒 草むらの会敵 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/05/31(日) 02 12 49 ID 1uTQqnCC 香草さんの蔦がラン目掛けて伸びてきているのが見える。だが、間に合わない。 そもそも香草さんに期待していなかった僕は、すでに準備をしていた。 煙玉を炸裂させ、思いっきり右に飛ぶ。 ワンパターンに思われるかもしれないけど、パターンを増やせば良いって物じゃない。基本を忠実に行うことは大切なことだ。 それに、僕の今の貧弱な道具の状況も考慮に入れて欲しい。 ちなみに、今の僕の道具は煙玉がポケットに残り三つとベルトにつけた怪しい光曳光弾が二本、それにシルバーの投げたナイフが三本。 熱の塊であると同時に光の塊でもある今のランに、曳光弾の光が届くとは思えない。ナイフの無力さは先ほど照明済み。 ああ、それとポケットを探ったら平べったいものに指があたったから、多分ガムも持っている。今僕が持っているものの中で一番いらないものだ。そのガムでも噛んで落ち着けって? 喧嘩売ってんのか。 予想通り、炎に包まれているランはもともとあまり視界が明確でないようだ。さらに煙幕。回避は成功した。 しかし優に二メートルは離れている場所を通過したのに、僕は信じられない熱波に晒された。肌は痛むし、服からは長時間ストーブに当たり続けたときのように嫌な臭いがする。多分髪はチリチリになっていることだろう。 なんて熱量だ。直撃したら大火傷どころか火葬まで完了してしまうだろう。骨が残るかどうかは微妙なところだけど。 そのまま数メートル進んだ彼女は、僕に避けられたことが分かると、こちらに向き直り、再び突撃してくる。 その様子は猪を連想させた。猪は燃えていたりしないから良いよね。 僕はワンパターン極まりなくて申し訳ないが、煙玉を使い、今度は左に飛んだ。 右に飛ぶとランによってこんがり焼かれた、湯気の代わりに煙が立ち上るホッカホカの地面にダイブするはめになってしまうからね。 彼女は再び僕の脇を走り抜ける。当然また僕は熱にさらされ、体力と精神力を同時に削られる。 再び回避に成功したわけだが、このまま続けていたってジリ貧だ。煙玉の残弾数は残り二。 何とか活路を見出さないと、と考えていると、ランの纏っている炎が随分と小さく、色も赤よりのオレンジと随分落ち着いてきていることに気づいた。 ラン自身も苦しそうに顔をゆがめている。わずかこれだけの運動でそんなに体力を使うはずもないから、考えられる線としては、この状態だと呼吸が出来ないのか、それとも単にあまりの火力のために消耗が激しいのか。 ほとんど維持できないような技を使わせるなんて、シルバーのトレーナーとしての度量はたかが知れる。 視界の端で香草さんとシルバーが戦っているのが見える。 香草さんの蔦はかなり焼けたとはいえ、それでも両手二本しかないシルバーが数本の蔦を操る香草さんとまともに戦えているのは驚きだった。 香草さんがシルバーにやられることはないだろう。そしてこちらも後数回かわせば片がつきそうだ。 シルバーもそれを察したのだろう。 「ラン、火を消せ。撤退だ」 155 :ぽけもん 黒 草むらの会敵 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/05/31(日) 02 13 22 ID 1uTQqnCC 火を弱めたランはそのままその場に崩れ落ちる。 よほど消耗していたようだ。あれだけの大技で、消耗していないほうが異常なんだから当然なんだけど。 「逃げるのか!」 「元々お前なんて眼中にねえんだよ。ラン、煙幕だ」 素早くランに駆け寄ったシルバーはランにそう命令する。 あっという間に二人は黒い煙に包まれる。 ランがいるので闇雲に攻撃するわけにもいかず、手をこまねいていると、煙が晴れたときにはもう二人の姿はなかった。 慌てて付近を捜索すれば、彼らが現れた草むらの影に人が通れそうな穴があった。 穴を掘るで現れ、この穴を使って逃走したわけか。 前回と同じ逃走手段ながら、僕たちに打つ手はない。 ワンパターンな奴め。もう少しバリエーションを用意しようとは思わないのか。この単純馬鹿が。 内心で悪態をつくも、またシルバーをまんまと逃がしてしまい、ランを救えなかったという事実に変わりはない。 僕は一応警戒して穴から離れると、見通しのいい場所で横になった。 失意と疲労で動く気が起きない。 「ゴールド、大丈夫!?」 香草さんが慌てた様子で僕に問いかける。僕が怪我でもしたと思ったのだろうか。 「大丈夫、疲れただけだよ。香草さんこそ、怪我はない?」 「当たり前でしょ」 「蔦は?」 う、と言いよどむ。痛いところを突かれたのだろう。香草さんの自慢の蔦は大半が使い物にならなくなっている。 「すぐに治るわよ!」 本当にそうならいいんだけど。 すぐ、というのがどれくらいの時間のことを指しているのか、僕は分からない。 でも、たいした怪我がなくて何よりだ。 ……怪我? そういえば、香草さんは右肩を怪我していたんだった。シルバーが善戦していると思ったら、そういうわけだったのか。 シルバーが人間離れした強さを持っていたわけではないんだと少し安心すると共に、いくら五体満足でも逃げることしか出来ていない自分が少し惨めになった。
https://w.atwiki.jp/sstoujyou/pages/530.html
バレンタイン御礼 ヤガミスペシャル
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/284.html
612 :ぽけもん 黒 鳥と草むら ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/04/01(火) 13 46 56 ID ovaSZsBM 僕達は他愛の無い話をしながら歩き――話の内容は本当にただの世間話だったが、彼女の口調は強いものの、ちゃんと会話が成立した。 つまり話もしたくないほど僕を嫌っているというわけじゃないようだということが確認でき、少し安心した――、町のはずれの草むらの前に着いた。 人間の子供は皆、危険だから町からは絶対に出ちゃダメ! もし草むらに入ったりしたらこわーいポケモンにさらわれちゃうわよ! と親から耳にたこができるほど言われたものだ。無論、僕も例外ではなかった。 ポケモンも子供は同様だろう。田舎町だからあまり危険なポケモンはいないとはいえ、もしいきなり複数の大きなポケモンに襲われたら逃げることもままならないだろう。 少し不安になって、香草さんに話しかける。 「えーっと、これから草むらに入るわけだけど、大丈夫だよね?」 「私を誰だと思ってるの? エリートなのよ? その辺の雑魚なんか相手にもならないんだから」 彼女は胸を張り、自信満々に答えた。 エリートとは。確かに彼女は御三家と呼ばれることもあるあのメガニウム系の純系のように見える。もしかしたら、それなりに良家のお嬢様だったりするのだろうか。 「それは頼もしいね」 「当たり前でしょ! 弱い人間なんかと訳が違うんだから!」 むむ、中々に聞き捨てなら無い発言が。やはり彼女は差別主義者なのだろうか。先ほど覚えた僅かな安心がすぐに不安に覆い隠される。 彼女はそういうと、僕の不安をよそに足早に草むらに分け入った。僕も慌てて彼女の後を追った。 しばらくはただの虫かねずみくらいしかいなかった。あれだけ危険と言われていた草むらなのに、町の中の草むらと変わらぬあまりの平穏さに拍子抜けしてしまった。 しかし、油断したのがまずかった。僕は何かの羽音を聞いたかと思うと、次の瞬間には地面にねじ伏せられていた。 「うわぁ!」 「何!? 鳥ポケモンじゃない!」 「当面の食べ物ゲットですー」 聞こえてきたのは香草さんの慌てた声と、間延びした可愛らしい女の子の声。 背中にしっかりと感じる重さと香草さんの言葉の意味。 つまり僕は、鳥ポケモンに背後から飛び掛られたのだろう。 いや、そんな冷静に分析してる場合じゃないぞ! あまりに暢気な口調だからついつい油断してしまうが、よく考えれば食べ物ゲットとか不穏な台詞が聞こえたぞ! もしかしてこのままさらわれてそのまま……うわあああああ!! まずい、それはまずいぞ! 「た、助けてー!」 僕は必死に手足をバタバタと動かし暴れる。しかしびくともしない。 「落ち着きなさい! 『蔓の鞭!』」 香草さんの大声の後、何かが空気を裂く音が聞こえ、僕の背中が軽くなった。 急いで飛び起きると、香草さん手首の辺りから指くらいの太さの濃緑の蔓が飛び出していた。 後ろを向けば深い茶髪と鋭い黒い目をした、全身が卵色の羽毛に包まれている、腕が翼になっている少女がいた。 鉤爪になっている赤褐色の右足と左の翼を蔓で絡めとられている。 そして……なんと言ったらいいのか……服を着ていない。 これは……ピジョット系の子供かな? 翼の表地が見えればそうだと断定できるんだけども。 「『風起こし』ですー!」 と、ぼんやりしていたら、彼女は激しく羽ばたき始め、瞬間突風が巻き起こった。 「うわあああ!」 「きゃああああああああ!」 僕は再び地面に這い蹲り、香草さんは蔓が千切られた上に数メートル飛ばされた。 子供とはいえ鳥ポケモン。草タイプでは相性が悪い。 ならばやはり、僕のやるべきことは一つだろう。 僕は立ち上がると、リュックを下ろし、そして走って彼女に飛び掛った。 「きゃあ! な、なにするですー!」 彼女は油断していたのか、あっさりと僕に押し倒された。そして当然慌てて僕をどかそうと暴れる。 翼で叩かれる背中が痛い。こんなにあっさりいくんだったらリュック下ろさなかったらよかったな。しかし頭一つ分も小さい彼女では僕をどかすことは出来ない。 「あのさ! 僕とパートナー契約しない!」 僕はバサバサという騒音に負けないように、声を張り上げて言った。 それを聞いた彼女の攻撃の手が少し弱まった。 613 :ぽけもん 黒 鳥と草むら ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/04/01(火) 13 47 23 ID ovaSZsBM 「ぱぁとなぁけいやく? それ食べれるですぅ?」 彼女はキョトンとして僕を見つめる。正直、かなりこれはやばい。主に僕の理性的な問題で。 「食べれないけど、食べ物は保障するよ!」 「本当です? ならするですー!」 そう言って、彼女は拍子抜けするくらいあっさりと攻撃の手を止めた。満面の笑みとともに。 「ありがとう! これからよろしくね!」 僕は彼女の上からどけ――少し彼女の感触が名残惜しかったが――、彼女の翼をとって起こした。 さて、これからが問題だ。 後ろを向けば、ちょうど香草さんが上体を起こしたところだった。 ああ、赤い双眸が彼女の憤怒の表情によく栄える。 「は、話聞こえてたよね? そういうことだからさ、お、落ち着いて」 「黙りなさい」 音量は小さいが、その声はどんな怒声にも劣らぬ迫力を持っている。 予想よりも遥かにまずい事態だ。 「落ち着こう! とりあえず落ち着い」 「黙れ!」 それ自体で空気を裂けるような、鋭く尖った大音声が発せられた。 僕と彼女のビクンッと体を竦ませる。 「たかが……たかが小鳥の……それも低脳な野生のポケモンの分際で……よくもこの私に傷を負わせてくれたわね……! 殺す……殺してやる!」 彼女は立ち上がると共に、両の手首から十本近い数の蔦を出した。 あの鳥ポケモンは僕を殺して食べようとしていたみたいだから正当防衛が成立しなくもないだろうけど、今の香草さんに、そこまでの理性的思考が出来ているとは思えない。 「話を聞いてよ!」 ああダメだ、彼女は完全に聞く耳を持っていない。 しょうがない、こんなことに使うことになるなんて思ってもなかったが……。 「ええと、僕はゴールド。君、名前は?」 僕は背後の彼女に呼びかける。 「はい! ポポというです!」 「ポポさん、少しの間だけ、なんとかあいつから逃げてくれ」 僕はそう彼女――ポポに指示すると、自身はバッグに向けて走りだした。 僕のバッグに入っている奥の手を使うために。 ポケモン商品で業界最大手であるシルフスコープ社製の眠り粉。 あたれば九割以上の確率で相手を眠りに落とす。僕が野生のポケモンから逃げるために用意した最後の手段だ。それをまさかこんな形で使うことになろうとは。 僕が走り出した後、すぐにバサバサという羽音が聞こえた。 ナイス判断だ、ポポ。 あの数の蔦では地面を走るという2Dの動きではすぐに捕らえられてしまうだろうが、空を飛ぶという3Dの動きでは捕まえるのは容易ではないはずだ。 その様子を確認しようと顔を上げる。 その瞬間、僕の脳に衝撃が走った。 速い! 香草さんの蔦はそれぞれが意思を持っているかのようにそれぞれが独立して無軌道に動き回っていて、しかもその速度は風圧だけで草が薙げるほどのものだ。 一方のポポも、複雑な軌道を描いて飛び回っていて、あたりそうで中々あたらない、という絶妙な距離をとっていた。どうしても避けられないものは翼で起こした風で切り裂いている。 二人のレベルの高さに驚かされる。 こういっては何だが、普通に町で暮らしているポケモンとは格が違う。 と、彼女らのバトルに見とれている場合ではない。 今僕は観客ではなく選手なのだから。 僕は大回りに彼女の後ろまで回りこむと、そのままそろそろと彼女に近づいていく。 幸いにも彼女は自らの蔦を捌くので精一杯で、周囲に対しては気が回っていないようだ。 「えいっ!」 僕は一気に彼女に接近すると、彼女の頭上で眠り粉をぶちまけた。 振り向いた彼女と視線が合った、と思った次の瞬間には、僕は地面に横たわっていた。 同時に、全身を強い痛みが襲う。 痛みに耐え、なんとか目を開くと、数メートル先に僕を見下ろしている香草さんがいた。 振り向きざまに何かされたのだろうけど、何をされたかすら分からない。 彼女は一歩、また一歩と僕の方に歩いてくる。 614 :ぽけもん 黒 鳥と草むら ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/04/01(火) 13 48 16 ID ovaSZsBM 背筋に寒いものが走った。全身の痛みは引いてきていたが、腹部の痛みだけは引くどころかいっそう強く主張してくる。そのせいで、体が強張って立つことすらままならない。逃げることなんて出来るはずもない。 彼女は僕の足元まで来ると歩みを止めて、何かを言おうとしているのか、口を開いた。 が、口は言葉を紡ぐことなく、そのまま彼女は僕の上にダイブした。 「……………………!」 僕の腹部に彼女の腕が勢いよくめり込み、僕は言葉にならない悲鳴を上げた。そして、そのまま意識を飛ばされた。 ―――――――――――――――――――――― 目を開けると、僅かな光が感じ取れるのみだった。 日暮れか明け方か。いずれにせよ、太陽の姿は見えなかった。 暫し待つと、脳と視界にかかってた靄は晴れてきた。 現状を確認しようと上体を起こそうとして気づいた。 僕の上には、まだ香草さんが乗ったままだった。 よく考えてみれば、眠り粉は二十回分以上あったはずだもんなあ。それを一度に、それももろに受けて、なおかつ強い刺激が与えられなければしばらく意識を覚ましていなくても不思議はない。 それでも、まだ香草さんが寝てるってことはその日の内ってことだろう。 つまり、今は日暮れの時間であり、僕は数時間ほど気絶していたみたいだ。 「香草さん、起きて」 香草さんの肩を揺する。 程なくして彼女は意識を取り戻した。 無言でコシコシと目をこすると、再び僕の上に倒れこんだ。 「……暗い」 先ほどまで辺りを僅かに照らしていた残光はもうなく、光源といえば星明りくらいしかなくなっている。つまり、彼女にとってしてみれば、もう休眠の時間なのだろう。 しかしそれでは僕が困る。 というわけで、僕は彼女を僕の上から下ろすと、目を凝らしてなんとかリュックを見つけ、そして中から野営用の道具を取り出した。 固形燃料に火をつけ、辺りにあった枯れ草や枯れ木を集めて火を起こす。野生のポケモンや害虫に対する対策と、料理のためだ。火の上に水筒の水を移したなべをくべた。 「ゴールド、目を覚ましたです?」 何を食べようかとリュックの中をあさっていると、上からバサバサという羽音と共にポポが降りてきた。 「ポポ! 一体どこ行ってたんだ?」 僕が目を覚まして以来姿が見えなかったから、あの騒ぎで怯えて逃げてしまったかと思っていた。 「ポポ、空から二人見てたですー。そしたら暗くなって降りられなくなったですー」 そうか、野生のポケモンに襲われることの無いように見張ってくれてたのか。でも日が暮れてしまうと鳥目だから、何も見えなくなってしまって途方にくれてた、って時に僕が焚き火をして、それを目印に降りてきたって訳か。おかしくて僕はクスクスと笑ってしまった。 「そうなんだ、ありがとう。ところでお腹減ってるよね、何食べる? 人間の肉はさすがに無いけどさ」 「人間? ポポは人間なんか食べたりしないです! パンなら食べるです!」 ポポは翼をパタパタさせて抗議する。 「でも、僕に飛び掛って『食べ物ゲット』とか言ってなかった?」 僕はパンの缶詰を開封して、彼女に手渡しながら問う。 「それは、大きなリュック背負ってる人間はみんな食べ物持ってるからですー」 ああ! そういうことか! 彼女の狙いば僕じゃなくて僕の持ってるリュックだったのか! はあ、そりゃそうだよな。そもそもポポは人を裂けるほど鋭い鉤爪を持っているわけでもないし、人を食いちぎれるほど立派な牙を持っているわけでもない。よく考えれば人間を食うために襲うわけがない。 急に気が抜けてしまった。いや、ちょっと前までは気どころか意識さえ抜けていた訳だけれども。 「なぁに? 騒がしいわね……」 香草さんがこの騒ぎで起きたみたいだ。ちょうどいい、説明してしまおう。 「いやあ、実はかくかく」 「しかじかというわけなんですー」 「……なにそれ。どうしてそんなこと」 今の彼女はそもそもが感情の起伏に乏しく、僕達の話を聞いて何を思ったかがまったく分からない。昼間の元気すぎるのも困り者だが、こういうときはあまりに元気がなさ過ぎるのも困り者だ。 615 :ぽけもん 黒 鳥と草むら ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/04/01(火) 13 49 36 ID ovaSZsBM 「説明したとおりさ。ポポにはなんの問題もないわけだし。あ、香草さんはパンと御飯どっちがいい?」 「……パン」 僕がパンの缶詰を手わたすと、彼女は無言で開け、そのまま黙々と食べだした。 僕もパンの缶詰を開け、食べると、沸いたお湯でインスタントのスープを作り皆に配った。 それを食べ終えると、ポポはすぐに寝てしまった。鳥ポケモンの大半は基本的に朝型だから無理も無い。 「……歯磨きたいんだけど」 一方の香草さんは、朝型とはいえ衛生状況を気にかけるくらいの余裕はあるようだ。 「はい」 「……なにこれ?」 「知らない? シルフスコープ社製の『キシリトール配合メタモンガム』。五分くらい噛んでると歯を磨いたのと同じ効果があるとか」 「……知ってるわよ。私は歯を磨きたいって言ったんだけど」 「しょうがないじゃないか、水は貴重なんだから。吉野町に着くまでどれくらいかかるか分からないし」 彼女はしばらく不服そうにメタモンガムを眺めていたが、諦めたようにため息を一つ吐くと、包装を向いて噛みだした。 僕もメタモンガムを噛みながら、寝袋を取り出すと、一つを彼女に手渡した。 二人のガムを噛むクチャクチャという音だけが沈黙を埋めていた。 しばらくして二人ともガムを口からだし、包装に包んでリュックのゴミスペースに入れた。 僕はその後寝袋に包まり、ボーっと空を眺めていた。 野外で寝て空を眺めるなんていつ以来だろうか。 「ねえ……起きてる?」 僕のそんな懐古は、香草さんの呼びかけによって中断された。 「起きてるよ。どうかした?」 「……どうしてあんな子と契約するの?」 僕はつい吐きそうになったため息を慌てて飲み込んだ。まだ引きずっていたのか。 「さっきも言っただろ? 彼女には何の問題もないんだから」 それに香草さんに石英高原で四天王を倒して殿堂入りまで旅をする気があるように思えない、ということは言わなかった。 「私一人だと不安なの?」 言い切ってからでよかった。言葉の途中に挟まれたなら確実に言葉に詰まってしまっただろうから。 この言葉はある意味、核心を突いている。 「私、強いのよ? ……誰にだって、絶対に負けないんだから」 「強くたってタイプの相性とかあるだろ? やっぱりそれをカバーする仲間が」 「相性なんて関係ないわ。どんな相手だって、私は負けない」 凛とした強い言葉だった。僕は言葉を失ってしまった。 これで分かった。彼女は人間を差別しているわけではない。自分の種族以外の全てを差別しているのだ。自分の種族に対する圧倒的なプライドが拗れた形、か。 後はそのままずっと無言だった。 聞こえる音は虫の鳴き声と香草さんの息の音と、時々聞こえてくるポポの寝言だけ。 あまりの静けさにそのままうとうとしてしまった。 慌てて、なんとか意識を覚醒させ、そのまま寝袋から抜け出した。 必ず一人は火の番が必要だ。でも、香草さんはポポには出来そうもない。今日はとりあえず僕がやるとして、明日からどうしようか。 僕は一つため息を吐くと、近くの木の根元に、木を背もたれにして、火のほうを向いて座り込んだ。この姿勢なら負担も少ないし、うとうとすることはあるだろうが火が消えたり燃え広がったりしていないことの確認くらいは出来るだろう。 上着をペロンとまくってみる。予想通り、腹部には大きな青あざが出来ていた。 はあ、ともう一つため息を吐く。前途多難どころじゃないぞ、これは。 これからどうしようか。 そんなとりとめも無いことを考えたり、小さくなった焚き火に枝を放り込んだり、うとうとしたりしながら、僕は夜をすごしていった。
https://w.atwiki.jp/83452/pages/11977.html
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 紬・梓・純・さわ子・和 ※シンオウ編 2010/09/1 次スレ 紬梓「ぽけもん!」純さわ子「私達もいるわよ!」和「息ぴったり…あ、私もいるわよ」 http //ex14.vip2ch.com/test//read.cgi/news4gep/1284198398/ http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1288177724/ 戻る 名前 コメント すべてのコメントを見る シリーズ最多の伝説ポケモンを有するシンオウ地方キタ━━(゚∀゚)━━ !! そして、ミュウツーかっけぇぇ! -- (あずキャット) 2012-10-02 11 35 31 さすがシンオウ地方伝説の連打wwwwwwwww -- (名無しさん) 2012-05-27 17 31 15 ギラティナ… -- (ニャン) 2012-02-25 20 19 50 伝説テンコ盛りだな これでも出てない奴がいるんだから、シンオウやばい -- (名無しさん) 2011-09-19 11 43 36 アルセウスがしっかり美輪さんボイスで脳内再生余裕 -- (mog) 2011-09-19 01 25 12 ミュウツーさんに抱かれたい -- (名無しさん) 2011-03-10 23 04 46 ミューツーイケメン! -- (名無しさん) 2011-03-08 16 05 28 おもろかった!! しかしイツキェ…… -- (名無しさん) 2011-03-08 03 03 08 やばいな。ポケモソとけいおん好きには堪らん!面白かった。次はジョウトかな?尚更堪らん。 -- (名無しさん) 2011-03-07 19 25 40 なげえwwww メインキャラは全員でたんだな 残るはジョウトとイッシュか… これはナナシマもオマケであるんだな -- (名無しさん) 2011-03-07 06 59 17
https://w.atwiki.jp/bluesky-dreamer/pages/71.html
コマンドを押して進むミニゲームです 無料ゲーム/配布元/ 素材チビコン/作者チビコン
https://w.atwiki.jp/parallel_pimensions/pages/30.html
< 駄 作 > ブァアファンタジー2の続編。 2が終わったが、退屈だなってことで作ることになった。 正直この判断が失敗だったなと今でも思う。 ストーリーはディープロイという電子体の敵が、 3人の幹部と大量の部下、強大なバックを引き連れ メテオのクソッタレワールドを支配しようとする。 ディープロイはとある一国の王である、キングトールに 支配してやる宣言をするが、鼻で笑われてしまう。 キングトール「ハッwwwwお前らじゃ無理だろwwww」 ディープロイ「....なんだと?なぜそう思う....?」 キングトール「お前ら普通じゃねぇか。お前らにこんなふざけた世界は理解できねぇよ。」 ディープロイ「......?」 その言葉は普通に事実。 ブァアは普通の王道支配者が暮らせるような普通な世界ではないのだ。 書くのめんどくさい
https://w.atwiki.jp/pokeredgreen/pages/11.html
攻略チャートページ ここでは最初から最後までの攻略のページでポケモンは謎解きなどはありませんが とりあえず生きずまったらここにきて進んでみてください。それでもわからないことがあったら 掲示板に質問してください。 マサラタウン~トキワの森 トキワシティ~おつきみやま ハナダシティ~クチバシティ イワヤマトンネル~ロケット団アジト ポケモンタワー~タマムシジム ヤマブキシティ全般 ポケモン屋敷~グレンジム トキワジム~チャンピオンロード セキエイ高原 ハナダの洞窟
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1197.html
707 :名無しさん@ピンキー [sage] :2009/03/30(月) 06 38 16 ID dKqraO07 「じゃあ、出発するよ」 素早く後片付けを済ませた僕は、二人に向かってそう言った。 今朝の目覚めはこの旅始まって以来最悪だった。過去最低だった。そういえば、香草さん曰く僕はサイテーなんだよな。 しかし、僕はなんとかその最初で最大の障害をクリアして起きることができた。 僕は朝食もとらずに、桔梗町へ進路を向けて進もうとした。 「ゴールド? そっちは来た道ですよ?」 ポポが怪訝に思うのも無理はない。ポポは昨日僕と香草さんとの間に何があったかを知らない。 あの決定的な破局の後ポポの元に戻った僕と香草さんは、その後一言も会話を交わすことなく寝てしまった。 ポポは僕の姿を認めるなりすぐに走ってきて抱きついてきたし一方的に話しかけてきたけど、僕は「ああ」とか「うん」とか適当な相槌を打つ以外のことをしなかったし、特に尋ねられもしなかったから答えなかった。 そもそも、まともに会話できる心理状態じゃなかった。 今は一晩たったお陰で少しは落ち着いていられるが、まだ気分は重い。もう逃げたい。一人になりたい。そういえば、ランがシルバーにさらわれたときも、一人で部屋に篭って、現実の一切から逃げていたっけ。はは、昔から進歩がないな、僕は。 「ポポには説明してなかったけど、昨日香草さんと話し合った結果、香草さんとはパートナー契約を解除することになったんだよ。だから、手続きのために町に戻らなきゃ行けないんだ」 僕はできるだけ簡単にポポに説明した。あんまり詳しく説明すると、それだけでまた平静を保てそうになくなる。 「契約……解除です?」 ポポがそう聞き返してきた。 ああそうか。ポポには契約解除という言葉の意味がよく理解できないのか。 もう何も言いたくなかった。これ以上言うことは、それだけでもう苦痛だ。 でも、僕にはポポに説明する責任がある。何せ、僕の落ち度でパートナー解消することとなったのだから。 「つまり、もう香草さんとは、一緒にいられないって、ことだよ」 一息に言うことができず、区切りながら言葉をなんとか発した。 その言葉を聞いた瞬間、ポポの顔がぱあっと輝いた。 なんて露骨な反応だろうか。 ポポは香草さんに酷い目に合わされたりしたし、確かに正しいリアクションではあるんだろうけど、それを見る僕の気持ちは複雑だ。 「大丈夫ですかゴールド。顔色が悪いですよ?」 キラキラと輝いていた顔が元に戻り、心配げに僕を覗き込む。 まいったな。平静を装えているつもりだったのにな。僕はつくづく駄目な奴だなあ。 ポポに心配かけまいと、無理に笑顔を作る。 「大丈夫さ、なんでもないよ」 「ゴールド、心配しなくてもいいですよ。誰もいなくなっても、ポポだけはずーっとゴールドと一緒にいるですよ」 ポポは微笑みながらそう言った。 心配をかけないどころか励まされる始末だ。まったく、僕って奴は。 そう思うと同時に、不意にポポが可哀想に思えた。 ポポは今までのことから分かっているとおり、優秀だ。 だから、僕みたいな、こんな旅に出て早々にパートナーに見放されるようなダメトレーナーより、まともなトレーナーと出会っていれば、きっともっとその才能を生かせたはずなのに。 若葉町で、あのとき旅を終わらせなかった過去の失敗が鮮明に思い出された。 あのときの旅を終わらせるという僕の判断は、やっぱり間違ってなかったんだ。 そもそも、僕みたいな人間がトレーナーをやっていていいのだろうか。 仮にこのまま香草さんが新しいパートナーを見つけることができなかったら、彼女は僕のせいで夢を諦めたことになってしまう。 それなのに僕だけがのうのうと旅を続けるのか。 果たして、そんなことが許されるのか。 急に、何もかもが嫌になってきた。 いっそここで全部終わりにしてしまおうか。 と、ここで僕は正気に返った。 今考えてもしょうがないことだ。香草さんと別れて、それから考えればいい。このまま立ち止まっていたら、香草さんになおさら迷惑をかけることになってしまう。 今は、ただ桔梗町へ…… 708 :名無しさん@ピンキー [sage] :2009/03/30(月) 06 38 52 ID dKqraO07 ふと、香草さんを見るために振り返って気づいた。 香草さんはいつのまにか出発していて、しかも桔梗町とは反対の方向へ――つまり正しい進路へ向かって歩いていた。 「こ、香草さん!?」 驚いて大声で呼びかけるが返事も反応もない。 仕方がないので走って追いかける。 香草さんの歩く速度はそこまで速くはなかったので、すぐに追いつくことができた。 彼女は僕が追いついても僕のほうを向くこともしない。ただ前だけを見据えていた。 しかし視線は定まっているが、焦点は曖昧に見えた。 顔はしっかりと前方を向いているものの、時折眼球がオロオロとさ迷う。 まるで、酷く狼狽しているかのように見えた。 「香草さん、こっちは桔梗町とは反対方向だよ?」 僕の呼びかけにも反応しない。一体どうしたのだろう。僕の呼びかけにこたえないのは僕と口を利きたくないからだとしても、次の町を目指して進んでいることの説明にはならない。 あ、もしかして前の町に戻る分のロスが嫌だったのかな。 彼女が何も語らない以上、彼女の真意は分からない。しかし、それ以外に納得のいく説明を思いつかなかった。 日が暮れたが、それでも香草さんは止まらない。 ポポは空から降りてきて、香草さんの後ろを歩く僕の後ろを不安げについてくる。 ポポの手を引いたほうがいいのだろうけど、そうすると香草さんが掻き分けた細い轍のあとをまっすぐ進めなくなり、とても歩きにくくなるため、香草さんに置いていかれそうなのでできなかった。 食事も休憩も一切とらない行軍だ。僕はもうヘトヘトだった。 よくよく考えてみたら、彼女は次の目的地――檜皮村で止まることになるんだから、無理して追いかけなくてもいいんじゃないか? 今更、こんなことに気づいた。朝は失意のあまり頭が回っていなかったようだ。 僕は歩くのを止め、その場に腰を下ろした。 どのみち、体力的に限界だった。 「香草さん、今日はこの辺で野宿にしようよ。もうこれ以上歩けないよ」 無駄だと分かっていつつ、一応香草さんに呼びかけてみる。 すると意外なことに、香草さんは素直に進むのをやめた。 本当に意外だった。僕は呆気にとられ、自分が何をしようとしていたのかすら分からなくなってしまったほどだ。 彼女一人村についても、僕がいなければ契約は解除できない。 だから僕と行動を共にすることが最善と判断したのだろうか。 「……香草さん?」 呼びかけてみるが返事はない。本当に、彼女は一体何を考えているのだろうか。 止まったってことは僕の声が聞こえてないってことはないと思うんだけど。 怪訝に思いながらも、食事の支度と寝支度を整えた。 食事の支度ができた際、再び香草さんに呼びかけたが、何の反応もなかった。 草ポケモンは一般的に光合成をすることができるため、食事を行わなくてもエネルギーを供給できる。だから食事を行わなくても大丈夫なのかもしれない。 しかし、それでも不安なので彼女のすぐそばに食事を置いておいた。 僕はすぐまた彼女と離れたから、香草さんがそれを食べたのかは結局のところ分からない。 相変わらず、彼女は僕達とは離れて眠った。 ポポはもはや僕に抱きつくようにして眠っている。寝袋があるから、物理的には接触してないんだけれど。 709 :ぽけもん 黒 変異と成長 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/03/30(月) 06 43 33 ID dKqraO07 翌朝、僕は肉体的疲労からか心労からか寝坊してしまった。 僕が目覚めた頃には完全に夜が明けていた。 香草さんはもう先に進んでいってしまったかもしれない。 慌てて草むらを見回すと、こちらを見ていた香草さんと目が合った。 彼女は僕と目が合ったからか、それとも僕が起きるのを確認したからかは分からないが、フイと顔をそらしてしまった。 僕達が片付けと簡単な朝食を終え、立ち上がるとそれを待っていたかのように香草さんは無言で歩き出した。 僕達はまたそれについていくしかない。ポポは香草さんについていくというより、僕が香草さんについていっているから行動を共にしているにすぎない、といったほうが適切なのかもしれないけど。 そして今日もまた黙々と歩き続ける。 前日と同様に昼食も休憩も無しに歩き続け、そのお陰で夕暮れ頃にはポケモンセンターにたどり着いた。 ここは町があるわけではないのだが、檜皮町へこちら側から行くには洞窟を通る必要がある。 そのため、体力の回復と装備の整備のためにここにポケモンセンターが設けられているのだった。 ようやく休める。 ほとんどフラフラだった僕は安堵の溜息を漏らした。 「こ、香草さん、今日はポケモンセンターに泊まっていこうよ。このまま洞窟に入るのは危険だよ」 香草さんが止まってくれるか不安だったけど、ポケモンセンターの前に来るとちゃんと止まってくれた。 そのまま僕に続いてポケモンセンターに入る。 やはりというか、以外というか。とにかく、彼女は一応僕と行動を共にする気はあるらしい。 すぐに手続きを終え、あてがわれた部屋に入った。 荷物を置くとそのままベッドに倒れこんだ。 この二日、相当な強行軍だったため、僕のHPはもうほぼゼロだ。 瀕死状態である。 こんな過酷な旅にも関わらず、ほとんど疲労の色が見えないポポと香草さんが恐ろしい。 部屋に入るとポポは僕の倒れこんだベッドに腰を下ろし、香草さんは向かい側のベッドに腰を下ろした。 僕の横になっている場所は香草さんの向かい側だから、香草さんと正対する形になる。 決別以来初めて香草さんの顔を正面からまじまじと見たけど、どこか違和感を感じる。 やはり目の焦点が合っていないような、見ているのに見えていないように見える。 どうも、何か考え事をしていて、目の前の光景が見えていないときのような、そんな感じだ。 ……まあ彼女も僕のせいで色々余計な思案を巡らせなくてはならなくなったからね。 しかし、それにしては彼女から感じられる脆さというか儚さのようなものは何なのだろうか。 彼女の燃えるような赤い瞳が、今は酷く不安げに見えた。 しばらく横目で見ていたが、疲労から僕の瞼はすぐに落ちた。 目を覚ますと、部屋は真っ暗だった。 そして、ポポと香草さんは僕が意識を失ったときと同じ姿勢でそこにいるのが、窓からさすわずかな明かりに浮かび上がって見えた。。 「ど、どうしたの二人とも!?」 僕は驚いて二人に尋ねる。 外はすっかり日が落ちているとなったら、少なくとも数時間は経過しているはずだ。 それなのに電気も点けず、二人ともまったく同じ姿勢というのはただ事ではない。 「チコが睨んできて、怖くて動けなかったですー!」 僕が起きたと分かった途端、ポポはそう言って僕に飛びついてきた。 また何かあったのかと慌てて香草さんを見たが、香草さんは相変わらずの無表情だ。 お世辞にも優しい表情だとは言えないが、睨むというのとも違う気がする。 「う、うーん、そんなこと無いと思うけどなー。大体、香草さんがポポを睨む理由がないよ」 そうだ。どうして香草さんがポポを睨むことがある。 710 :名無しさん@ピンキー [sage] :2009/03/30(月) 06 44 08 ID dKqraO07 「ご、ゴールド、ポポのこと信じてくれないですか!?」 ポポは泣きそうな顔で僕を見てくる。 そんな顔で見られると心苦しいけど、だからと言って香草さんを誹謗していい理由にはならない。 「違うよ。ポポを疑ってるわけじゃない。でも、僕には香草さんが睨んでいるようには見えないよ」 しかしそこで思いもよらないことが起きた。 ポポの顔が見る見る歪み――それはちょうど何かに怯えるような表情だった――、僕に泣きながら縋ってきたのだ。 「わ、わがままな子だって思わないでです! ポポ、そんなつもりで言ったんじゃないです! 本当に睨まれているように感じたんです! ポ、ポポいい子にするです! いい子にするですから!」 「ど、どうしたのポポ! 落ち着い……」 「捨てないで! 捨てないでです!」 ポポは泣きじゃくるばかりで会話にならない。僕が言葉を挟む余地がないほど次々と言葉を発しているが、内容は大体、「いい子にするから捨てないで」といったようなものだった。 ポポの突然の錯乱に僕もパニックに陥る一歩手前だ。 「ポポは悪い子なんかじゃない。捨てたりしない」という旨のことをひたすら言いながら頭と背中を撫でているが、果たしてこれでいいのだろうか。 こんなときですらまともに対応できない自分が情けない。 「……によ、鳥の癖に!! 畜生の分際で!!」 と、今度は突然香草さんが叫びながら立ち上がった。 彼女の瞳が光を放っているがごとく爛と輝いた。 「こ、香草さん!?」 明らかに正気とは思えない香草さんの様子に、僕はまた恐怖する。 ようやく反応を示してくれたと思ったら、それがこれとは。 香草さんの両袖からはすでに十数の蔦が顔を出している。 泣きじゃくっている正気ではないポポ。 すでに臨戦態勢なもっと正気とは思えない香草さん。 正気ではあるもののこの室内で一番無力な僕。 どうすれば、どうすればこの場を収めることが出来るんだ。 ああ。 あああああ。 あああああああああああああああ。 だ、誰か助けてー!! ……誰が助けてくれるんだよ。 危うく僕まで正気を失いかけていた。 そうだ、僕がなんとかしなきゃ。 この状況を何とかできるのは僕だけなんだ。 幸いにも様々な道具の入ったリュックは枕元。 つまり使えない状況ではない。 やれる。いや、やるしかない! とりあえずするべきことは暴走する香草さんの鎮圧だ。 香草さんを止めねば! 「あ、アレは何だ!?」 僕はそう言って窓の外を指差した。 当然窓の外には何も無い。 香草さんが窓の外に気を取られているうちに道具を当てる作戦だ。 しかし香草さんは窓の外を見るどころか、視線を一ミリそらすことすらなかった。 ……うん。僕が馬鹿だった。 しかし落ち込んでいるような猶予はない。 何か次の作戦を考えないと。 「……どきなさい」 「へあ?」 予想外の言葉に僕は気の抜けた声を漏らしてしまった。 「どきなさい! そこは私がいるべき場所なのに! 私はこんな思いをしてるって言うのになんでアンタが……何も考えていないアンタみたいなのが!!」 も、もしかして僕がこのベッドにいるのが気に食わなかったんですか? それでこんなに激昂して? 「ご、ごめんなさい! すぐどきますから!」 僕は慌ててポポを抱き起こし、立ち上がる。 香草さんがなんでそこまで怒っているのかは分からないけど、それでこの場が収まるのなら僕はどくさ。どくとも! そう、退くも勇気! だからこれは勇気なんだ! 711 :ぽけもん 黒 変異と成長 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/03/30(月) 06 44 41 ID dKqraO07 僕はベッドから飛びのくと、ポポと共に窓際に移動した。 しかし香草さんはなおも僕をねめつける。 そして怒鳴った。 「そこからどきなさいって言ってるのよ!!」 ええええええええええ。 僕、どきましたけれども! 僕は一体どうすればいいんでしょうか。 そ、そうか。部屋から出ればいいんだ! 「ぼ、僕、部屋からでるから。それならいいでしょ?」 僕はそう言って、ポポをつれて入り口に向かう。 それを聞いた香草さんははっとした表情を浮かべ、そしてなぜかおとなしく蔦を引っ込めた。 一体どういうことだろう。 「……好きにすればいいじゃない」 え? 好きにすれば、とは一体どういうことだろうか。 どうしてこの状況でその言葉を向けられたのか。 さっぱり分からない。 か、考えろ。考えるんだ。 ポポが僕に泣きついた。 そしたら突然香草さんが怒り出した。 香草さんはどうやら僕がこの部屋にいること自体気に食わないらしい。 だから僕は部屋から出て行くと言った。 そしたら好きにすればいいと言われた。 ……うーん。 ……ううーん? や、やっぱり意味が分からないぞ? 僕はどうするのが正解なのだろうか。 「す、好きにしていいならここにいるけど……」 何が正解かは分からないけど、僕はそう言って再びベッドに腰を下ろした。 その隣にすぐにポポも腰を下ろす。 香草さんはそんな僕を見て何事かを言いかけたが、壁のほうを向いてベッドに潜り込んでしまった。 ……僕も寝よう。起きたばかりだと言うのに、なんだかぐっと疲れた。 僕がベッドにもぐりこむと、ポポも同じ毛布にもぐりこんできた。 ポポは僕に間違いなく抱きついている。完全に0距離だ。 今までも密着して寝ているとはいえ、隣に香草さんがいたり、寝袋があったりして、一対一での直接的接触はなかった。 ポポはとても暖かくて柔らかい。 特に邪な感情が湧くわけではないが、なんとなく決まりが悪い。 「あ、荷物整理しなきゃ」 いくらなんでも近すぎる。 僕は逃げるようにベッドから起きだす。 するとポポも起きだした。僕の腰をがっちりと掴んでいる。 「……ポポ?」 ポポは何も言わないが、目で僕に「行かないで」と訴えかけていた。 今にも泣き出しそうな顔だった。 「荷物を整理するだけだから、さ」 僕はポポに笑いかけながら言ったが、ポポの表情は変わらない。 僕は諦めて、再び横になった。 ポポはそれを見て、安心したように強く僕に抱きついてくる。 このポポの異常な恐れと執着は一体何なんだろうか。 彼女は僕の疑問など知る由もなく、穏やかな寝顔を見せている。 僕はポポの無垢な寝顔に言い知れない不安を覚えながら眠りについた。 712 :ぽけもん 黒 変異と成長 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/03/30(月) 06 45 14 ID dKqraO07 僕はそうとう疲れていたらしい。 目を覚ましたときにはもうすっかり日が高く昇っていた。 うわっ、寝過ごした。 僕は慌てて起き上がった。 すると再びポポと香草さんが向き合っていた。 ま、また昨晩の再来か!? 「ど、どうしたの二人とも!?」 よくもまあこんな状況でのうのうと寝ていられたものだ。 自分の鈍さに腹が立つ。 しかし僕の問いに対するポポの返答は意外なものだった。 「別に、何もないですよ? さ、早く出発するです」 ……何かが変だ。 なんと言うか、普段のポポからすると落ち着きすぎているというか、口調が普通の人間とそう変わらないものになっているというか。 その旨をポポに告げるとポポは、 「ポポ、成長したですよ。全部ゴールドのおかげです。ポポがいるのはゴールドのおかげですよ」 そう言って僕に抱きついてきた。 確かに、毎日少しずつポポは成長している。 他の人間と接触を持つことが刺激になったのだろうか、会った当初から比べると最近のポポは随分大人っぽくなったと思う。 しかしわずか一晩でこれほど変わるとは。 僕は激烈とも言える、あまりにも早すぎる成長に少しひるんでいた。 そんな僕を覗き込むポポの表情も、以前の天真爛漫な子供の表情より、少女といった感じの表情になっている……ような気さえする。 ほんのりと色づいた頬に、色気すら感じた。 何が成長のきっかけとなったのだろうか。 僕に対する異常な執着。それは、まるで僕に対する愛情のような―― ……僕は一体何を考えていたんだ。 違う。それは僕の勘違いに他ならない。 ポポの僕に向ける気持ちは恋愛ではなく親愛であるはずだ。 仮に僕が告白したら、きっとポポは僕を拒みはしないだろう。 しかしそれは僕を愛しているからではなく、僕と離れたくないからだ。 ポポは目に見えるほど不安定だ。 それはそんな彼女の依存心につけこんだ卑劣な行為だ。 僕はこんな思考をしてしまった自分を嫌悪した。 それに、もし、仮にポポが本当に僕を愛していたとしても、僕はその気持ちに答えることは出来ない。 今の僕には、女の子と楽しく恋愛を行う資格なんて、ないんだ。 過去をすべて清算しない限り。シルバーとけりをつけない限り。 僕は、あの過去を忘れない。あの時の気持ちを過去のものにしてはいない。 そして、過去を清算したとき、そのとき僕は……僕はきっと、犯罪者だ。 だから、僕がポポの想いに答える時は、多分一生訪れることは無いだろう。 だからせめて今だけは。今だけはポポに人の温かさというものを知って欲しい。 その僕の答えは、いずれ彼女を破滅に導いてしまうのかもしれない。 でも、僕に出来ることと言えばそれだけだった。 「そうか、よかったね」 だから、僕は微笑みながらポポに答えた。 遅めの朝食を終えた僕達は、いよいよ洞窟へと歩を進めた。 結局、今朝の香草さんは何も言わなかった。 それどころか、昨晩の激昂が嘘であるかのように、また寡黙になってしまった。 ポポも困りものだが、違う意味で彼女も困りものだ。 何せ行動の理由がさっぱり分からないのだから。 ポポのような行動ならば困ることは困るけど、それでも何を考えているのか悩むことはない。 そういう意味で、香草さんはポポとはまた違った種類の悩みの種だった。 本心としてはやっぱりパートナー契約の解除なんてなかったことにしてもらいたい。 都合のいい考えだと分かってはいても、これが僕の本心だ。 しかしまともに話し合いをすることもできないのならどうしようもない。 そもそも話し合いどころか、それを切り出すことも出来ないような雰囲気だ。 しかし…… 713 :ぽけもん 黒 変異と成長 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/03/30(月) 06 49 24 ID dKqraO07 「この洞窟、思ったより暗いね」 一応明かりが設けられているので、特に明かりなしでも通過できるとの説明だったのだが、それでもかなり薄暗く、足元すら覚束ない。 そもそもこの暗さの上、天井の高さも分からないのでポポによる哨戒が行えない。 そのため前方も不安である。 こんなとき、明かりがあれば…… そのとき、僕の脳裏にあるものがよぎった。 香草さんだ。 香草さんは一応フラッシュを覚えていたんだった。 で、でもアレだしなあ。目からライトだしなあ。 しかもこんな状況だ。頼みにくいことこの上ない。 さらに、頼んだところで多分答えてはくれないだろう。 まあ、歩くことも出来ないというほどでもないし、諦めようか。 そう判断し、しばらく歩いていると、突然突き飛ばされた。 「うわあ!」 「荷物置いてけー」 そう言いながら前方に表れたのはイシツブテの少女だった。 何日ぶりの会敵だろうか。 ポポと香草さんのコンビによって野生のポケモンはすべてまともな戦闘になる前に排除されていたので、野性のポケモンに出会うなんて極々当たり前のことがとても新鮮に感じられる。 香草さんはすぐさま蔦を伸ばして迎撃したが、少女はすぐに下がって闇にまぎれてしまった。 普段から闇の中で生活しているためか、それともここが彼女の住処のためか、地形を完全に把握しているらしい。 一方の僕達といえば、足元すら満足に見えない。 これはかなり不利かもしれない。 バトルとは単純な戦力差や相性の問題だけで決まるものではないのだ。 しかし僕の焦りなど香草さんには無用のものだったようだ。 「ふん、それがどうしたって言うのよ」 彼女はそう言って蔦を伸ばすと、横薙ぎの一線を放った。 するとすぐにくぐもった低いうめき声が聞こえてきた。 見事ヒットしたらしい。 確かに横一線の攻撃を放てば、たとえ見えなくても当たる。 しかし分かっていても容易に出来るものではない。 優れた威力と射程を併せ持っている彼女だからこそなせる技だ。 「ありがとう香草さん。助かったよ」 僕が彼女にお礼を言った瞬間だった。 上空から何かが飛来し、僕の頬を掠めた。 先ほどまでの場所にいたなら、少なくとも怪我くらいは負っていたに違いない。 「な、何だ?」 「荷物を置いていきなさいー」 今度は頭上から声が響いてきた。 おそらくズバットだ。 ズバットは聴覚が異常に発達しており、また、超音波を発することで無明の闇の中でも地理を正確に把握することが出来る。 これも洞窟に多いポケモンだ。 一難さってまた一難とはこのことか。 この洞窟のポケモンはどうやら洞窟を通過するトレーナーや通行人に追いはぎをして生活しているらしい。 毎年一定数の人通りが確保されているこの洞窟ならではの生活スタイルだ。 そんなことが分かったからと言って、おとなしく荷物を持っていかれるわけにもいかない。 しかし今度の敵は空を飛ぶ。 地上にいる敵と違って、先ほどのような方法では倒すことが出来ない。 「このっ!」 香草さんは宙に向かって闇雲に蔦を振り回すが、空しく空を切るのみだ。 「荷物を置いていけば命だけは助けてあげますー」 そんなベタベタな盗賊のような台詞が降って来た。 しかしそれは困る。 大きな町へ行けば簡単に揃うようなものだけど、あいにく揃えるほどの資金がない。 ライトの類も用意しておくんだったなあ。 714 :ぽけもん 黒 変異と成長 ◆wzYAo8XQT. [sage] :2009/03/30(月) 06 53 37 ID dKqraO07 どうして僕のチョイスはこう微妙にずれていると言うか、痒いところに手が届かない仕様になっているのだろうか。 ……ひとえに、逃げるための道具が多すぎることが原因だということは分かっている。 しかし無いものはない。無い以上、すべきことは過去を後悔することではなく、あるものでどうにかするということだ。 だから、僕は香草さんに頼む。 「香草さん、本当に悪いんだけど、フラッシュ、使ってくれないかな?」 右手に眠り粉の入った袋、左手に煙玉を持ちながら。 だって、こんなこと言ったら絶対香草さんは今宙に向けている蔦を僕に向けると思ったんだもん。 咄嗟に相手を無力化するための装備だ。 香草さんは僕の声が聞こえなかったかのように宙に蔦を振るっている。 しかし表情がわずかに変化したから、聞こえてはいると思う。 となるとこれは考えている間にズバットから攻撃されないための防御だ。 しばらくの後、香草さんが口を開いた。 「それで、どうなるの?」 どうなるの? その後どうするのか、なら分かるけど、どうなるのというのはどういう意味だろうか。 よく分からないけど、香草さんがフラッシュを使った後の対応のことを聞いているのかな。 「大丈夫、後は僕に任せて」 だから、そう返事した。 香草さんは蔦を振り回すのをやめ、フラッシュを使った。 「ギャ!」 光線に晒されると共にズバットが短い悲鳴を上げた。 やっぱり僕に襲い掛かっていたのはズバットだったのか。 ズバットは光に晒されると、戦うこともせずふらふらと逃げていった。 光の当たらない洞窟でずっと生きてきたから、強い光というものに極端に弱いのかもしれない。 本当は天井を照らし出し、ポポに飛んでもらって倒してもらう予定だったけど、まあ逃げてくれるならそれに越したことは無い。 「どうなったの?」 香草さんが冷たい声で僕に問いかける。 「光にびっくりして逃げていったみたいだ」 「そう」 香草さんの声は冷ややかだった。 僕はそれに気おされたが、意を決して切り出した。 「あの、香草さん。フラッシュを止めないでもらえないかな?」 「……どうして?」 「今ので強い光がそれだけでポケモン避けになるって分かったし、やっぱり明るいほうが動きやすいしさ。……ダメかな」 これはただのいい訳だ。 こんなことを切り出した本当の理由は、彼女がどれくらい僕を嫌っているかが知りたかったからだ。 もし本当に僕を嫌っているのならば、間違いなく断ることだろう。 でも、もしも、契約解除なんて言ったのは一時的な感情だったとしたら。 僕には、あの日以来香草さんがずっとおかしいようにみえる。 だから、それにかけたかった。 あれは本心からでた言葉ではなく、何か理由があってのことなのだと。 「私は何も見えないのよ。どうやって歩けっていうのよ」 そういわれたから、僕は彼女の手をとった。 「これじゃ、ダメかな?」 彼女の手は、ひんやりと冷たいのに、とても柔らかかった。 僕の心臓が元気に跳ねている。 少し大胆すぎるような気がする。事実は僕と彼女はほぼ絶交状態であるのに、それなのにこんなことをしてもいいものだろうか。 彼女があまりにも眩しくて(物理的な意味で)、彼女の表情を伺えないのが怖い。 しかし彼女は僕の不安に反して、僕の手を振りほどくことも、握りつぶすことも、蔦で僕をズタズタにすることもしなかった。 ただ、穏やかに握り返してきた。 「しょうがないわね。特別に許可してあげるわ」 その声が、思ったよりも冷たいものじゃなかったことに僕は安堵した。
https://w.atwiki.jp/83452/pages/11976.html
―――――――――――――――――― 空の柱 カガリ「なに言ってんだよお前」 ダイゴ「いや、思うんだよ」 カガリ「?」 ダイゴ「結局、僕が一番強くてカッコイイんだよね! メタグロス、コメットパンチ!!」 メタグロス「」どがああん! センリ「ぐは…!」 センリ「」どたり ダイゴ「…強さを追い求めるのも程々にしておかないとね 本当の強さは心の強さ 力だけあっても意味ないよ でも勘違いしてしまうんだなあ だって人間だもの」 カガリ(やっぱりコイツは謎だ…) ぱらぱら… カガリ「! まずいな、今ので天井が崩れてきた… さっさと出るぞ」 ―――――――――――――――――― どがあああああん! カガリ「あぶねえ…」 レックウザ「きゅりきゅりしいい!」 カガリ「! センリが死んだことでレックウザは復活したのか」 ダイゴ「惜しい人を亡くしたな…」 カガリ「ふ、大誤算ってか?」 ダイゴ「……ダイゴだけにね、くす」 ダイゴ「……」 ダイゴ(……センリさん、ご冥福を祈ります) ―――――――――――――――――― 目覚めの祠 ニャース「行ってしまったニャ」 澪「うん…」 ニャース「これで良かったのかニャ?」 澪「うん…あの二人なら大丈夫な気がするんだ」 ニャース「ニャー、澪の考えることはわからないニャ」 澪ニャース「……」 澪「ニャース」 ニャース「澪」 澪「え?」 ニャース「ニャーも澪に一生ついていくニャ」ぼそ 澪「なに?」 ニャース「な、なんでもないニャ! 早く帰るニャ!」 澪「あ、うん…!」 ニャース「」たったった 澪「……」 澪「ありがとう、ニャース」 ―最終章完― エピローグ ムロジム 澪「ハブりん、ポイズンテール!」 ハブりん「プッププ~!」ざっ トウキ「ハリテヤマ、つっぱり!!」 ハリテヤマ「ハリテー!」 どがあああああん!! ハリテヤマ「」ばたあん ハリテヤマは倒れた 澪「や…やったあ!!」 ハブりん「プッププ~!」 トウキ「いや~負けたよ 強くなったね はい、ナックルバッジだ」さっ 澪「ありがとうございます!」 ニャース「やったニャ、澪!」 澪「ああ!これで8個目だ!」 トウキ「お!もう揃えたのか?」 澪「はい!」 トウキ「んじゃあ……ホウエンリーグに行ってみたらどうだ? チャンピオンのダイゴが引退して、新米チャンピオンが今いるらしいぞ」 澪「あ…行きたいです! !?…って、ええ!?」 トウキ「?」 澪「ダイゴさんってチャンピオンだったんですか!?」 トウキ「ああ…そうだけど」 ニャース「ニャーは知ってたけどニャ」 澪「ええ!?」 ―――――――――――――――――― ダイゴ「くしゅん!」 ダイゴ「風邪かな…」ずず… ダイゴ「それとも、誰かが噂してるとか?」 ダイゴ「くしゅん!」 ダイゴ「……大好評だねダイゴだけに」くす ―――――――――――――――――― 送り火山 カガリ「」かつかつ ひょこっ カガリ「!」 フヨウ「くる気配がしたけど、だあれ?」 フヨウ「! カガリちん…」 カガリ「フヨウ、すまなかったね 私にもう一度チャンスをくれ」 フヨウ「え…?」 カガリ「」ばりばり! フヨウ「あ…」 ばさあ! カガリ「マグマ団はもうやめるよ 今日は遊びに来たんだ、友達の家にね」 フヨウ「…!」うるっ フヨウ「カガリちん!!」がばっ ―――――――――――――――――― チャンピオンの部屋 ???「んくく… 俺がチャンピオン候補に選ばれるとは…」 うぃーん ???「ん?挑戦者か?」 澪「よし、やっと着いた…」 ニャース「新チャンピオンって誰ニャ?」 ???「……」 澪「ってミツルくん!?」 ニャース「オミャーだったのかニャ!」 ミツル「……そうです 僕が数々のトレーナーから選ばれたチャンピオンです」 澪「すごいな…」 ミツル「…ねえ、澪さん これがどうゆうことか分かります?」 澪「え?」 ニャース「?」 ミツル「この俺様が! 世界で一番! 強いってことなんだよ!」 澪ニャース「」 ―――――――――――――――――― ロゼリアは倒れた 澪「よし!」 ミツル「な、なんで… リザードン一匹に……六匹全部…」 ニャース(相変わらずだニャー) 澪「み、ミツルくん… このあとはどうすればいいのかな…?」 ミツル「あっちの部屋のコンピュータを使って殿堂入りすればいいんですよ」 澪「あ、ありがとう じゃあ行くね」たたっ ニャース「」たたっ ミツル「……」 ミツル「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 ―――――――――――――――――― 殿堂入りの部屋 ぴぴっ 澪「よし、これでこうして……っと」 ===================== カゲぴょん/リザードン♂ ハブりん/ハブネーク♂ ベロにゃん/ベロリンガ♂ サボみん/サボネア♂ ドっくん/ドクケイル♂ ルンたん/ポワルン♀ くらくら/ドククラゲ♀ トレーナー 秋山澪 殿堂入りおめでとう!! ===================== ―――――――――――――――――― 数日後 澪「ん?」 ピジョット「ピジョットー!」ばさばさ すっ 澪「手紙…?」 ピジョット「ピジョットー!」ばさばさ ニャース「誰からニャ?」 澪「! リラ師匠からだ!」 ニャース「読んでみようニャ」 澪「うん… ええと」 澪「澪へ ある用事があるんだ 今すぐジョウト地方に来てくれ リラより ……だって」 ニャース「ある用事?」 澪「ん~、わかんないけど とにかく行ってみよう」 ニャース「ニャー」 澪「……またママを待たせちゃうなぁ 悪いなぁ…」 ニャース「ママ…?」 澪「お、お母さんっ!!」 ――――――――――――――――――― ざっざっ ???「……これか」 ???「ジーランス、ホエルオー!」ぽん! ジーランス「……」 ホエルオー「……」 ???「わたしたちわ このあなで くらしせいかつし そしていきてきた すべてわ ぽけもんの おかげだ だが わたしたちわ あのぽけもんを とじこめた こわかったのだ ゆーきある ものよ きぼーに みちたものよ とびらをあけよ そこにえいえんの ぽけもんがいる さいしょにほえるおー さいごにじーらんす そしてすべてが ひらかれる…!」 がちゃあん! ???「…ふ、レジアイス・レジロック・レジスチル その三匹が揃えし時… ふふふ…」 おわり 戻る
https://w.atwiki.jp/dppokebattle/pages/19.html
ここは、現実のポケモンと離れた、空想の世界です。 どうぞ好きなだけ書いちゃってね! ~書き方~ ポケモン名/タイプ/特性 図鑑 種族値/努力値 主な技 戦略 みたいにお願いします。 <例> アイウエオ/水悪/かきくけこ(威嚇の特攻版) なぜか「あいうえお」だけ喋れる。意外と凶悪。 HP 攻撃 防御 特攻 特防 素早 アイウエオ 70 100 50 70 50 90 努力値:攻撃2 Lv.33 噛み砕く Lv.42 あ行ビーム 特殊 水 100/90/10 普通攻撃 Lv.49 アクアテール 攻撃素早を活かした速攻型に育てたいが、低すぎる・・・ おまけに耐久は紙・・・ バトン待ちポケモン